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★「終夜」 シアター風姿花伝 [舞台]

☆メモ風感想です☆


 登場してきたヨンと妻のシャーロットは情熱的で、ヨンの弟アランと妻のモニカも多少夫が高圧的で妻がびくびくしているのをのぞけば、まともなご夫妻に見えた。
 ところが母親の骨壺とヨンの前妻の娘と繋がっている電話を切らずに置いてある状態がその場の地場を狂わせたのか、いささかの酒がそれぞれの心の奥の秘密をあぶり出したのか、愛が憎悪に変わっていく。
 口から出た言葉は話す相手によって食い違う。どちらが本当なのか、どちらも嘘なのか。
男と女の関係はいろいろだ。ましてや結婚し、子ができて家族となると複雑で手に負えない。
 ヨンの妻シャーロットの見事なまでの絡みつく憎悪。ヨンは応戦するがやがてそれは色濃い疲労と諦めになっていく。
 不思議なもので、シャーロットが夫を批難し叫び怒鳴るほどに、観ているこちらには愛してると言っているように思えてきた。

 母親に愛されずに育ったヨンとそうではなかったアラン。ヨンは母の亡くなった今でも愛されたいと願っているように見えた。

 4人のなかで一番おとなしく、まともそうに見えたモニカだが二十代の恋人がいることがわかってくる。今は幸せだという彼女。アランはそれに嫉妬し、行かないでくれと縋り、そのうちに心許なく母を求めるように泣きじゃくる。だが母の愛はなく骨壺が見守るのみ。また母の代わりになる女もいない。

 話が進むにつれて世間的な感じのいい仮面は剥がれ落ちて、4人それぞれの本音が見えてくる。それとともに全員に狂気が垣間見える。

 ラストでモニカがもうひとつ真実の爆弾を破裂させて、アランとモニカの関係は出口を失う。ヨンとシャーロットはたがいに別れると言い張っているが、それがどうなるのかはわからない。

 母親の骨壺が割れて、収拾のつかない状況が訪れる。夜は明けるのか、明けないのか。


☆ --- ☆ ---☆

 モニカが子供が小さかった頃に使っていた服をヨン夫妻の子供に使ってと持ってくる。それを使って、モニカが一枚ずつ台に並べたり、アランがそれに顔を埋めて嘆いてみたりする。印象的な上村聡史さんの演出だった。

 シャーロット役の栗田桃子さん、ずっとテンションの高い演技で迫力が凄かった。

 ヨン役の岡本健一さん、50歳の疲れたような男を演じて新境地を開いた。まさかここまでできるとは想定外。

 モニカ役の那須佐代子さん、ふんわりとして上品で、でも狂気の量は多かった。
内にこもった熱量。丁寧な演技。

 アラン役の斉藤直樹さん、高圧的な男から母を求めて泣きじゃくる少年のような演技、振り幅が大きい。

 改めて言う必要もないけれど、4人とも素晴らしい役者さんだった。


 こぢんまりとした風姿花伝の劇場は、観客への細やかな心遣いが感じられた。長時間の観劇にも辛くならない座席のシートクッション。おいしい珈琲の販売と期間ごとに変わるお菓子。
 上質な作品と上質な役者さんとスタッフ。演劇を観たい人たちにやさしい劇場だった。


 ★公式サイト http://www.fuusikaden.com/nattvarden/index.html


    ですが、10/27(日)が千秋楽だったので、消されてしまうかもしれません。



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★「海辺のカフカ」 [舞台]

「海辺のカフカ」TBS赤坂ACTシアター

(注意! ネタバレしかしていません!)

 美しく、衝撃的な舞台だった。

 透明なアクリルケースに背景や役者さんを入れて話が進むのは、観る者の視覚に訴えかける強さがある。これを下手な役者がすれば悲惨なのだろうが、達者な役者たちがすれば実に面白く、客を飽きさせない仕掛けになる。今作はもちろん後者だ。
 トラックのケース、木々の、自動販売機の、バスの、図書館の、、、いろいろなパッケージされたケースが面白い。

 冒頭でかがみこんだ寺島しのぶさんが入った小さなケースが前面にでてきて、その表情にもはっとしたのだが、それが青いワンピース姿の少女役だった。
 もうひとつの役の図書館の館長の佐伯さんは大人の女性で、でも胸の奥になにかを抱え込んでいるような感じ。

 巨大な(人間大の)ネコやイヌが登場し、人間の言葉をしゃべる(実は逆で中田が猫語を理解できるのだが)。その迫力に、もうそれだけで嬉しい!
 そして猫好きとしては、ネコが残忍な目に遭っているのが辛かった。

 左のケースは図書館で、大島とカフカがユダヤ人大量殺戮の話をしている。右のケースではジョニー・ウォーカーがネコの解剖をしていて、中田がそれをおののきながら見ている。そのふたつのケースの間で少し後ろに下がった場所には扉が開いたままの冷蔵庫のケースがあって、その中には血を流したままの猫の首がずらりと並んでいるという場面が印象的だった。その血の表現が蜷川さんだなあ、と感心した。

 ラスト、森で佐伯さんが自分の腕を髪飾りで傷つけ溢れ出す血をカフカに差し出して、息子が母の血をすするシーンが実に衝撃的だった。
 血は母と赤ん坊を繋ぐものであり、こんな記憶は忘れられないだろう。
 観る側としても忘れられないシーンとなった。

 大島の設定が肉体は女性だが性同一性障害で、しかも恋愛では男性を好むゲイというのは複雑で難しい役だと言わざるを得ない。
 観客からも男性に見えたり、女性に見えたり、ふたつの性のあいだで揺れる感じがとてもよく出ていた。

 猥雑さと芸術的なシーンが同居する。音の使い方が神秘的だったり、日本的だったり、実にいい。

 随所に蜷川幸雄さんらしい演出があり、以前にも何作か蜷川演出の作品を観たことがあるので懐かしく思った。この作品が蜷川さんの集大成と言ってもいいような気がする。
 村上春樹さんの長くて話が入り組んでいる原作をここまでわかりやすく、目に見える表現にまで高めた演出は素晴らしいと思った。
 スタンディングオベーションも納得の出来なのだった。(5/31観劇)


★TBS赤坂ACTシアター
https://www.tbs.co.jp/act/schedule/

電話で問い合わせてみてください。まだ当日券の出る日があるようです。
6月4,5,7日はあるかも。
開演1時間まえから劇場正面の窓口で当日券受付開始とか。
詳しくは問い合わせるときに確認してくださいね。

★ホリプロでもまだチケットが購入できるようです
https://horipro-stage.jp/stage/kafka2019/


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★「ピカソとアインシュタイン -星降る夜の奇跡-」 [舞台]

「ピカソとアインシュタイン -星降る夜の奇跡-」 よみうり大手町ホール

 若き天才たちとパリの大人たちの小洒落た会話劇。

★ROSE配役 ピカソ=岡本健一 アインシュタイン=川平慈英 シュメンディマン=村井良大 訪問者=三浦翔平
★BLUE配役 ピカソ=三浦翔平 アインシュタイン=村井良大 シュメンディマン=川平慈英 訪問者=岡本健一

 BLUE配役を観て感じたのは、こんなにさっぱりとした話だっただろうか、ということ。初演、再演はピカソとアインシュタインが熱くたぎる情熱をぶつけ合っていた覚えがある。ピカソの女ったらし度も相当なものがあった。今回は脚本も刈り込まれて短くなった感があるのだが、思い違いだろうか。
 三浦さんのピカソは登場からテンション高く声もよく出ていて、若さだなあと思った。
川平さんのシュメンディマンは客席からかなり笑いが起こっていて、岡本さんの訪問者はゴールドの衣装と相まってさすがのかっこよさだった。

 千秋楽の★ROSE配役はピカソとアインシュタインの熟成感があり、全体にメリハリがきいていてよかった。それぞれの会話もこちらに自然と入ってくるようでかなり笑えた。
 村井さんのシュメンディマンはキュートだった。
 この、役のスイッチはそれぞれの演者の個性が出ていて、相乗効果もあって楽しめた。

 特筆すべきはシュザンヌはじめ3役の水上京香さん、特にシュザンヌ役のときに彼女の周囲だけが輝いて見えた。その存在感は希有なものだと思う。
 そして香寿たつきさんのジェルメールは『ラパンアジール』の雰囲気を担い、恋多きパリの女性の生き方を魅力的に演じていた。
 男性陣も全員がそれぞれに素晴らしかったが、やはりこのおふたりに目がいってしまった。


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★「メタルマクベス disk2」[舞台] [舞台]

「メタルマクベス disk2」[舞台]

公式HP
http://www.tbs.co.jp/stagearound/metalmacbeth_disc2/

【作】宮藤官九郎 【演出】いのうえひでのり
【音楽】岡崎 司 【振付&ステージング】川崎悦子
(【原作】ウィリアム・シェイクスピア「マクベス」松岡和子翻訳版より)
【CAST】

尾上松也 大原櫻子 / 原 嘉孝(宇宙Six/ジャニーズJr.) 浅利陽介 /
高田聖子 河野まさと 村木よし子
岡本健一 / 木場勝己

2018年9月15日(土) ? 10月25日(木)
IHIステージアラウンド東京

 シェイクスピア作の「マクベス」を下敷きに宮藤官九郎さんが大胆にメタルバージョンにした作品。過去と未来を二重写しにして物語は進む。かなり時事ネタを挟み込み、演奏、歌、殺陣、バイクなどいろいろな要素を詰め込んだ宝箱のような舞台になっていた。

 しかも劇場は客席をドーナツ型に囲んだ舞台で客席全体が回る。そして舞台上に巨大スクリーンが現れて城を登っていくような感覚になるという、水平にも垂直にも動いている感覚を得られて貴重な体験ができた。
 尾上松也さんは歌舞伎ネタでいじられ、岡本健一さんは年齢ネタでいじられ、劇団新感線の舞台はやりたい放題だ。魔女はベビーメタルもどきのBBAメタルだし、演歌歌手は電車アナウンスもどきをやらされる。演じる方々は大変だと思う。
 やはり宮藤官九郎さんは天才ではないだろうか。
 1981年と2218年を行き来しながら、過去のバンド「メタルマクベス」がだんだんと未来の王座を狙ったランダムスター夫妻の心を侵食していく。偽りだが栄光を手にした夫妻が狂い、壊れていくさまは哀れさを誘う。
 休憩を挟んで4時間ほどの舞台は見応えがあった。
 観劇したのは10月はじめ。わたしには完璧な舞台に感じられた。役者さん、ひとりひとりが全員、自分の役を演じきっていたし、歌とか演奏とか殺陣も完璧だった。
 カーテンコールがスタンディングオベーションになったのは当然に思えた。
 それにしても岡本健一さん、カッコヨカッタです。


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★「ヘンリー五世」 [舞台]

舞台「ヘンリー五世」
公式サイト http://www.nntt.jac.go.jp/special/henry5/
新国立中劇場 6/3(日)まで

観劇日 5月23日(水)
ネタバレしてます!

相変わらずの作品の完成度。素晴らしい。
ただ台詞が相当に刈り込まれていたと感じたのだが、その割には語りの割合がが多すぎる気がした。

王の白い衣装のドレープが美しく、その他登場人物たちの衣装も凝っている。
イギリス側とフランス側を旗と衣装の色で分けていてわかりやすかった。
旗を使った様々な演出も心憎いばかりだ。

戦場のシーンで勇敢なヘンリー王の白い衣装がだんだんと血で赤く染まっていく。ただ玉座におとなしく座っているだけの王ではないのだ。
王とわからぬように化けて部下たちの様子を探っていたとき、ある男と手袋を交換して、その後~というエピソードが面白い。立派な王だが、茶目っ気もある。

殺陣のシーンが迫力があって、それぞれの役者さんたちの動きが独特だった。
効果音も音楽も適確でよかった。

12歳のキャサリンを口説く、ヘンリー五世(30歳すぎ)。おたがい言葉がわからず、たどたどしい。負けた国の王女に勝利した王がわざわざ了解を取る律儀さ。
自分の運命をなんとなくわかりつつも、本音が見え隠れする可愛らしいキャサリン。
 このまえのシーンでフランス王妃の、戦いに負けたので仕方ないけど腹立たしい。でも逆らえないというような相反する感情のせめぎ合いの演技がとても印象的だった。

両国の王族と、ピストルなどの下の者たちの対比がよく描かれていた。
そして戦場でも金貨を稼ごうとするピストルが笑えた。ラスト近く、略奪した愛する妻を亡くしたと独白するシーン。好き勝手に生きてきて悪いことも多少はしてきたピストルだが、そこはかとない哀愁が漂う。

それにしても、戦争とはなんなんでしょうね。


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★「岸 -リトラル-」 [舞台]

舞台「岸 -リトラル-」
2018.03.01(木)観劇

シアタートラムにて3月11日まで(当日券あり)
上演時間 休憩含む2時間半
【作】ワジディ・ムワワド
【翻訳】藤井慎太郎
【演出】上村聡史
【出演】
岡本健一 亀田佳明 栗田桃子 小柳友
鈴木勝大 佐川和正 大谷亮介 中嶋朋子

公式サイト https://setagaya-pt.jp/performances/201802kishi.html

ツイッター https://twitter.com/Kishi_Littoral

神戸公演
https://www1.gcenter-hyogo.jp/contents_parts/concertcalendar.aspx?md=5&ko=4292412362

3月17日(土)
・会 場  芸術文化センター 阪急 中ホール  
・開 演  16:00  (開 場 15:30)
・料 金  A \5,000/B \3,000
・発売日  先行 2017年10月13日(金) 一般 2017年12月17日(日) 
・お問合せ 芸術文化センターチケットオフィス:0798-68-0255


[ 感 想 ]

 ワジディ・ムワワドの「炎 アンサンディ」が『約束の血』4部作第2部
だったらしく、今回の「岸 -リトラル-」は第1部だということだ。

 父の故郷に埋葬場所を求めて、死んだ父と共に青年ウィルフリードが
旅するという話である。父親は歩くし話すし、ある意味シュールだが
なかなかおもしろい。
 青年ウィルフリードには幼い頃より助けられてきた剣を持った勇者が
いて、今回の旅にも同行する。勇者は他の人には見えない。
 映画撮影をしている設定だったり、いろいろと仕掛けがされている。
 故郷は内戦の傷跡が生々しく残り、因習の地でもある。そこで出会った
若者たちは容易には人に打ち明けられないような惨い経験をして傷ついて
いる。

 父のスーツケースを開けると白い封書が床いっぱいに広がり落ちるという
シーンが美しい。
 若かりし日の父と母の回想シーンで、母の命か赤ん坊の命か、二者択一を
医者から迫られる父の葛藤が、その後の傷として残ってしまったのを実感で
きた。
 舞台の床や壁の裂け目は作品の内容をよく現していると思う。
 太鼓の音を使ったり、海の水を塗料で表現したり、シーンの切り替わり方が
いい演出だった。
 作品全体を通して素晴らしい人々が創り上げた作品、という感じがした。


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舞台「CRIMES OF THE HEART -心の罪-」感想 [舞台]

CRIMES OF THE HEART -心の罪-」 シアタートラム
217.09.14.(木)観劇

作     べス・ヘンリー
翻訳     浦辺千鶴
演出     小川絵梨子
出演     安田成美 那須佐代子 伊勢佳世
渚あき ・ 斎藤直樹 / 岡本健一
企画     中嶋しゅう
主催・製作     シーエイティプロデュース

あらすじ
上院議員の夫を拳銃で撃ち抜き、ベイブ・ボトレルは朝刊の一面を飾った――。

ミシシッピ州南部の田舎町で、祖父母に引き取られて育ったマグラス家の三姉妹。長女・レニーは自分の誕生日にもかかわらず、従妹のチックとともに保釈された三女・ベイブの帰りをキッチンで待っている。そこへ一足先に駆けつけたのは、歌手になるため故郷を離れた次女のメグだった。数年ぶりの再会を果たす彼女たちのもとへ、メグの元恋人・ドクや、若手弁護士・バーネットも訪れるが、渦中のベイブは事件の真相を話そうとしない。そんな中、育ての親でもある祖父が危篤状態となり……。

ときに感情を激しくぶつけ合い、ときに互いの生き方に共感しながら、それぞれの孤独を理解していく三姉妹。そしてレニーは、ある願いを込めながら、誕生日ケーキのロウソクの火を吹き消すのだった。

東京公演終了
https://www.stagegate.jp/stagegate/performance/2017/lonely_hearts/


神奈川公演
【日程】

2017年9月22日(金)18:30 開演 ※18:00 開場
【会場】

やまと芸術文化ホール メインホール
http://www.yamato-bunka.jp/hall/


★★★ 
 つまりは登場人物全員それぞれが、抱え込んでいたものにたいして行動する。ともかく勇気を出して一歩踏み出す。そういう作品なのだろうか。

 海外の作品を語るうえでその国の背景とか歴史とか宗教とかを抜きにしては正しく見ることはできない場合が多い。それでも日本の役者でやる意味はなんだろう? 国は違っても人としての「共感」というものを掬いあげたいからだろう。
 それと日本の国民性として人の不幸を大声をあげて笑うということがないので、コメディとはいっても観客の皆さんはクスッとするくらいだった。
 長女が別れた恋人のことで悶々と気を取られているときに、三女が自殺するためのロープの在処を尋ねると、気を取られながら応えるというのはブラックすぎるだろう。思わず笑った。

 出演者それぞれがいい味を出していた。そしてそれぞれが抱えているものとのあいだで心が揺れる感じがよかった。
 以下、極力ネタバレしないように、ざっとした感想など。

 レニー役の那須佐代子さんはとかく長女は地味になりがちなのだが、そうきたか!という感じ。そんなに強烈な方だったのね。自分の誕生日にやたらとこだわるレニーがものがなしく愛しい。
 次女メグ役の安田成美さんがいい空気感を出していた。内面に傷を持ちつつ、あえて周囲には明るくはすっぱに見せてきたらしい。時折見せる危うさ、そしてそれを隠すための強がり。
 三女ベイブ役の伊勢さんは衝撃的な役を深刻になりすぎずに軽やかに演じてくれた。夫への憎しみ、殺そうとして撃ったのに心臓ではなく腹に当たってしまったという顛末。新聞の一面を飾ってしまったのに、割と淡々としている。姉たちや弁護士とのやりとりでくるくると変わる表情がいい。末っ子ってそうよね、という姉妹間の立ち位置を垣間見た。

 そして三姉妹の騒々しくも、幼い頃の母の事件とかその後の生活とかを感じさせる会話。仲がいいと単純に括れるような関係ではないのだけれど、心の奥では繋がっている、そんな姉妹。

 姉妹の育った家の近所に住む従姉妹チック(渚あきさん)はこういう人いそう、と思わせる。面倒見はいいし根はいい人なんだけど、煙たがられる損な存在なのだ。

 メグの元恋人ドク(斎藤直樹さん)は過去のことをふっきったように今は家族を持って暮らしているのだけれど、でもどこかでメグのことを引きずっていて・・・。メグとドクとの心の揺れが素敵だった。

 バーネット(岡本健一さん)はベイブが夫を拳銃で撃ち殺そうとした件で雇われた弁護士なのだが、以前バザーで見かけてなんとなくベイブに好意を抱いていた。それにベイブの夫を父からすべてを奪ったとひどく恨んでいて、長年父の敵を取ろうとしていた。事態が変化するたびにいろんな顔を見せてくれた。職務と好意と憎しみのあいだで揺れる心。感情のなかで翻弄される確実な表現がよかった。


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舞台「炎 アンサンディ」再演 感想 [舞台]

舞台「炎 アンサンディ」再演 感想
出演/麻実れい、栗田桃子、小柳友、中村彰男、那須佐代子、中嶋しゅう、岡本健一 
作/ワジディ・ムワワド 
翻訳(新訳)/藤井慎太郎 
演出/上村聡史 

★2017年03月04日(土)~03月19日(日) シアタートラム

★兵庫公演
会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
日時:2017/3/24(金)15:00、25(土)13:00

アンサンディ 公式サイト


ネタバレ注意報!  そして観劇していない人にはなんのことかわからないような感想となっております。


 再演ということもあってか完璧な完成度だった。

 場所と時間が舞台の上で複雑に交差する。詩的な台詞。役者の動きにも無駄がない。計算された構図。
 どこを切り取っても美しい演出だった。

 わたしが気に入っているのは床に敷かれた白くて大きな布の演出だ。この布の上で幼いといってもいいくらいの若いナワルとワハブが戯れ、妊娠したナワルが母に村を出て行くか赤子を手放すか選べと言われ、そして祖母の死をもって穴の中へと白い布がするすると吸い込まれて行く場面だ。この一連の流れは祖母、母、娘へと繋がっていることを見える形で示した素晴らしいシーンだ。ナワルの少女時代の終わりを告げるとともに血の連鎖を見せる。母親を憎むしかない代々の女たち。

 字を覚えたナワルに連れて行ってというサウダ。ふたりの若い女はアルファベットを口にしながらとても仲がよく、底抜けに明るい。レバノンは内戦で、人が殺し合うようなひどい状況だが、そんななかでもふたりの友情は明るく強い。
 戦火の中、ナワルは産んですぐに手放した男の子を探している。

 このナワルとサウダの若い頃の過去の話と、現代のナワルの産んだ双子が亡くなった母の遺言で自分たちの父と兄を探す旅に出る話が交差して物語は進んでいく。
 場面展開が早く、観客に息をつく間も与えない。音の演出も翻訳の言葉も巧妙で、こちらの眼も耳も全開のまま、その世界観に引きずりこまれて行く。


 麻実れいさんの存在感が凄い。あの語りの声ときたら深くて豊穣でいろんな要素が籠もっている。
 ナワルと言う女性は幾度も火焔の中に投げ込まれたような人生を送りながら、それでも大好きな祖母の言いつけを守って、愛を失わず高貴な人間性を持って生きたのだな、と感慨が沸き起こった。
 拷問とか強姦とかあっても、結局のところ最初に産まれた男の子はナワルにどれだけ愛されていたんだ、と思う。
 双子は最初、受け取りを拒んだほどだし、ナワルが黙り込むまえから家族関係はぎくしゃくしていたのではないか。


 岡本健一と言う役者は演じることに取り憑かれている気がする。若者から老人まで何役も演じ分けながら、そのどれもに生活感と個性を与え、姿形から歩き方などの所作までが別人のものだ。
 狙撃の名手で戦争カメラマンでありミュージシャンでもあるニハッド。死者の手を取りおしゃべりをさせるのは幼児性の表れのようにも見える。ひどく残忍な、殺すことに躊躇のないその価値観は狂気そのものだ。本人は自分のことを残忍だとは決して思っていない。それが当たり前なのだ。無邪気にふるまうその姿に鳥肌立つ思いがした。
 ラストの兄への手紙を読みながらの演技は圧巻だ。混乱、驚き、悲嘆、雑多な感情がめまぐるしく変化していく。ニハッドは人でなしだけれど、母親を思う純粋な気持ちが胸の核の部分にはあったのだと思う。


 役者さんたちの演技も初演よりももっと円熟していて、
公証人の中嶋しゅうさんの味のある演技も那須さんの母親と3人兄弟の恐ろしい話も、黙り込む双子も、やさしいアントワーヌも素敵だった。


 カーテンコールが終わって座席を立って劇場を出た途端、現実に戻ってしまった。
もっとあの美しい世界に浸っていたかったのに!



★ヘンリー4世感想(1部&2部)[舞台] 新国立劇場 12月8日 観劇 [舞台]

背景に使われている装置は瓦礫を思わせる細い棒木切れでできている。それが大地震の後の残骸や海に打ち寄せた木切れを想像させる。
ヘンリー4世(中嶋しゅう)の王冠も宝石の嵌まった黄金に輝くものではなく、白く塗られた木々の寄せ集めのようだった。


ギリシャ神話を思わせるドレープの美しい衣装と灰色のコートを着た臣下たち。ハル王子やホットスパーは凝った衣装と髪型など細部まで神経の行き届いたいでたちだった。
そんな中で皇太子ハリー(浦井健治)の身に付けていたヘッドフォンが現代の若者を思い起こさせて、物語の時代と現代との二重写しに演出は成功している。


シェイクスピア独特の言葉遊びが過ぎてうんざりするかと思えたがそんなことはなかった。それは役者たちの動きとセリフの巧みさにあるのだろう。
当然のことながら佐藤B作さんのフォールスタッフが実にいい味を出していた。


2部のピストルの演技が突き抜けていて、停滞しがちなシーンにスピードを与えていた。ホットスパーと同じ役者だとは思えない出来だった。
岡本健一さん、どんな役でもできてしまうのですね。


第二部の終わりにはハル王子と父、そして兄弟たちとの結束の強さが描かれ、一緒に放蕩に明け暮れていた仲間たちとの決別が描かれる。
そしてヘンリー5世の誕生となる。
ハル王子は父王の死によって、フォールスタッフと遊び回っていたときとは決別し立派な王となる。

クィーンの音楽が流れるシェイクスピア劇というのも不思議な空間にいるようでいいものだった。

舞台を観ながら、
ここに生まれた私たちは木ぎれの一片にすぎず、大きな歴史の流れの中でそのひとコマを演じているに過ぎないのではないかと、そんな感慨に浸った。
たがいの陣営は戦って血を流し死んでいく、その中で王冠を取り合うのだが、それに何の意味があるのか、と考えさせられた。

 


★舞台「スポケーンの左手」シアタートラム [舞台]

「スポケーンの左手」
http://www.stagegate.jp/stagegate/performance/2015/sponkane/index.html
 シアタートラム 東京公演     :     2015年11月14日(土)~29日(日)


作     マーティン・マクドナー
翻訳・演出     小川絵梨子
出演     蒼井優 岡本健一 成河 中嶋しゅう
提携     公益財団法人せたがや文化財団/世田谷パブリックシアター
後援     世田谷区
主催     シーエイティプロデュース


    ★★★

 場所はうらぶれたホテルの一室。
板張りの細長い空間。トイレ(ここの部分の床はタイル張り)とフロントに通じるドア。逆側はベッドと非常階段へと通じる大きな窓。
壁はない。大きなトランクと旅行鞄が置かれている。

 数十年前、若い頃に悪い奴らに切断された自分の左手を探し求めているカーマイケル(中嶋しゅう)。
それを騙して一儲けしようとしているカップルのトビー(岡本健一)とマリリン(蒼井優)。
この三人にホテルのフロント係マーヴィン(成河)が絡むという実にシンプルなお話。

 演出で印象的だったのは音だ。ドアのノック、手錠をはずそうとする音、ピストルの音、もろもろ・・・。
 なんだか考えてみるとグロテスクで恐ろしい話なのだが、笑いを交えてさらっと観られた。
役者のみなさんの演技が自然だったおかげだろうか。

 冒頭でタオルで口を塞がれ、後ろ手で縛られ転がされてクローゼットに閉じ込められていたトビー。
出ようともがくのをうるさいとばかりに、カーマイケルにビストルで撃たれてあっけなくご臨終?
 ドレッドヘアで黒人になりきっていた岡本健一。時折、その存在感にぎょっとするほどだった。
すぐに泣く、情けないトビー。自分を守るためなら恋人も差し出してしまいそうな虚弱さ。

 蒼井優ちゃん、床を転がったりベッドで横になったと思ったら物凄い早さで座ったり、なんてすばしっこいんだ。
冒頭から飛ばしっぱなしで怒鳴る、喚く、動きまわる。熱演で、そりゃあ声も枯れ気味になるわ。
 実に魅力的なマリリンだった。

  中嶋しゅうさん、さすがの演技力!
片手で煙草を吸うところも様になってた。初老の男の背中が雄弁だったのは言うまでもない。
 カーマイケルは危ない人のようだが、電話を掛けて自分の連絡先を教えたり細やかに近況を尋ねたりして、母親にたいしてはまともな人のようだ。
 でも自分の数十年も前に失った左手を探してるって、今更くっつくわけでもないのにね。ともかく自分の一部が判らない場所にあるのが我慢ならないのだろうか。
 後半、トビーとマリリンに偽物の手を売りつけられそうになったり嘘をつかれたりして、頭にきてガソリンを撒いて火をつけようとしていたのに、母親から電話がきて、人種差別的な母に似てみずからも黒人嫌いだったのに、母親を気遣うトビーに、なんとなく殺す気が失せてしまった。そこのところの感情の動きが観ていて納得できる演技だった。

 動物園の手長猿が唯一の友達だったフロント係のマーヴィン。パンツ一丁になるのが趣味なのか。
 目の前で事件が起きるのを夢見て、自分はそのヒーローになりたがっている。命は惜しくない。積極的に死のうとしているように見える。
 過去にトビーからスピードを買おうとして、お金だけ騙し取られて雪の中で一時間も待たされた恨みもあり、なかなかガソリンの缶に仕掛けられた蝋燭の火を消したくない。
 可愛いマリリンに頼まれて渋々消すのだが。
 敵なのか味方なのか、その揺らぎ感が出ていた。明るいフロント係の垣間見せる孤独と手長猿へのこだわり。やっぱり変だ。

 スーツケースから手首から切り取られた無数の手がごろごろ出てきたのには驚いた。
 ラストで偶然、カーマイケルは自分のタトゥーの入った手を見つけて、最初は自分のじゃないと否定し、次におそるおそる右手と比べてみたりして、そしてやはり自分のだとわかったとき、煙草を吸いたくなって、でもホテルの部屋は自分が撒いたガソリンで危ない状態になっていて、ライターを投げる。
 さて、望みが叶った後でカーマイケルはどうするんだろう?どんな思いがその胸に去来するのだろうか。

 結局のところ、なくした左手ってなんだったんだろう? 自分の欠落している部分? それを取り戻せたら自分のこれまでの人生が取り戻せる気がしたとか。

 


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