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★「森 フォレ」 世田谷パブリックシアター [舞台]

【作】ワジディ・ムワワド 【翻訳】藤井慎太郎
【演出】上村聡史

【美術】長田佳代子 【照明】沢田祐二 【音楽】国広和毅 【音響】加藤温
【衣裳】半田悦子【ヘアメイク】川端富生 【アクション】渥美博 
【演出助手】生田みゆき 【舞台監督】大垣敏朗

【出演】
成河 瀧本美織 /
栗田桃子 前田亜季 岡本玲 松岡依都美 / 亀田佳明 小柳友 大鷹明良

岡本健一 麻実れい

★公式サイト https://setagaya-pt.jp/performances/202107mori.html

・岡本健一さんによる出演者ひとりひとりのインタヴュー動画や写真なども
あります


☆感 想 (7/22観劇)

 作品はそれぞれの人生の壮大なタペストリーを紡ぎ出す。
すべてのシーンが宝石のように輝く。すべての出演者、それを支えた
この作品に関わった美術や衣装の方々まで、完璧な仕事をしたと感じられた。


 家系図の末端にいるルーと古生物学者のダグラスのふたりはルーのルーツを
探す旅に出る。
 はじめは母の両親、そのまた両親・・・。
 だがこの作品の描き方は独特で、いろいろな時代、国、場所などが舞台上に
混在し、複雑になっていく。そればかりかステージ上に異なる世代の人物たち
が姿を見せたりもする。

 印象的だったのはアルベールとオデットから続く近親相姦の流れだろうか。
正義漢の強い、そしてやさしいアルベールに嘘をついて、実のところ誰か知ら
ない男に陵辱されて身籠もったのではなく、アルベールの父と通じていてでき
た子供たちだったのだ。
 下界へと通じる道を水に沈めて、閉じられた森で子供たちと動物と暮らす夫婦。
この自分の王国で心優しかったアルベールは豹変して、身籠もっていた双子の
女の子エレーヌが年頃になると身体を重ねるようになる。自分の父の子、母の
違う妹だとも知らずに。
 苦悩するオデットと、双子の弟のエドガー。エレーヌは背徳の匂いを感じなが
らも無邪気で、父親への愛情を隠そうともしない。
 そして悲劇が起こる。
 それでも続いていく忌まわしい血筋。


 リュディヴィーヌとサラの究極の友情物語も印象的だった。
第二次世界対戦中、彼女たちはレジスタンス組織にいた。その中でサミュエルと
サラは結婚し、リュスが産まれる。が、組織に逮捕の手が伸びる。
 リュディヴィーヌとサラは娘をアメリカ人パイロットに託す。
 ふたりのいる家にも逮捕のときが近づく。そのときリュディヴィーヌはサラと
自分の身分証明書の写真を貼り替える。
 捕まれば強制収容所での死が待っている。だがリュディヴィーヌの名家ダーヴル
の名であれば、助かる可能性がある。両性具有で子供を持てないリュディヴィーヌ
より、サラには未来があると。
 こうしてリュディヴィーヌとサラは入れ替わった


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 瀧本美織さんは常に怒りと寂しさを内に秘めたようなルーを見事に演じきった。
旅に出たルーが父親に随時メールを送るとき、文面の最後にハートマークをつける。
強がっていてもやはり父親を好きなんだと思えるエピソードでした。

 成河さんは別の舞台でも拝見したことがあるのですが、身軽にどんな役でも演じ
てしまう役者さんですね。
 古生物学者のダグラスと父親との関係、その約束が辛い。骨の修復に一生を捧げ
るって重すぎます。そしてそれを引き継ぐって気が遠くなります。

 栗田桃子さんはエメも大変な役だったと思いますが、オデットのおとなしげな
被害者に見える加害者役に騙されました。まさか桃子さんが演じていたとは。

 小柳友さん、エドガー役が印象的でした。割とまっすぐな直球タイプなのに、胸
の奥に屈折したものを抱えている感じが素敵でした。

 物語の最後の方で、若き日(亀田佳明)と年を重ねた(大鷹明良)姿の2人の
エドモンが同時に舞台の上に登場するのですが、はじめはどうなっているのか
なんの役の方々なのか、なぜ2人いるのかわかりませんでした。
 二重写しになった子どもキリンのエドモンの人生が語られるのですが、子供の
頃には幸せだったのかもしれないけれどあの事件後、とても可哀想なことになって
いったのが、ひしひしと迫ってきて辛かったです。

 岡本玲さんは養父で実は兄と愛しあうエレーヌを演じたのですが、「パパ」呼び
で無邪気な感じが余計に近親相姦の罪深さを浮き上がらせていました。
 その娘のレオニーも演じていたのですが、ちょっと野性的でたくましい女性に
思いました。同じ女優さんが演じていたなんて。

 松岡依都美さんはダーヴル家の呪われた血筋の最後となるリュディヴィーヌ役。
サラに自分の命を与えて、生きるように諭すシーンが素晴らしかったです。
 サラを演じた前田亜季さんとの緊迫した状況でのふたりのやりとりが胸に突き刺
さってきて、目の前で凄いものを観ているのだと感じました。

 3人の父親を演じた岡本健一さん。
 妻の病に苦悩しながらルーを育てたであろうバチスト、知らずに近親相姦へと
突き進んでいったアルペール、レジスタンス組織の中でサラと愛しあうサミュエル、
その娘がルーの祖母のリュスなのですが。
 それぞれの置かれた背景も違うし、時代も異なる父親たち。それを骨太な演技で
演じ分けていました。それでいて水のようにナチュラルな存在感でした。

 麻実れいさんはリュスを演じたのですが、孫のルーの訪問にも無愛想で、孤独を
滲ませていました。大人の女性なんだけど、どこか幼さを内在させている人物です。
 複雑な生い立ちで、養母から言われた「本物の母が迎えに来てくれる」とずっと
期待していた少女時代。叶わなかった苦い思いが痛々しかったです。
 その生い立ちの秘密を追って行くルーとダグラス。

 役者さんたちは複数の役を演じている方が多く、そのどれもが魅力的でした。
でもやはりアルベール・ケレールから流れる一族の物語は衝撃的で、演じるのが
難しかったのではないかと思いました。
 詩的な台詞も不自然ではなく溶け合っていて、それでいて時折はっとさせられ
ました。

 この物語は大木の年輪を思わせるような舞台で演じられ、この何代にもわたる
多くの人々の人生が描かれるにふさわしいと思いました。
 それにしても幸せな人は出てこないですね。

 ラストの大量の紅い花びらが舞うなかに登場人物たちが集うシーンは圧巻でした。
そして観客含め、すべての人生への応援の様に感じました。

 素晴らしい作品をありがとうございました!!


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