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★「リチャードⅡ世」 新国立中劇場 [舞台]

作:  ウィリアム・シェイクスピア
翻訳: 小田島雄志
演出: 鵜山 仁

キャスト:
岡本健一 浦井健治 中嶋朋子 立川三貴 横田栄司 勝部演之 
吉村 直 木下浩之 田代隆秀 一柳みる 大滝 寛 浅野雅博 
那須佐代子 小長谷勝彦 下総源太朗 原 嘉孝 櫻井章喜 石橋徹郎 清原達之 
鍛治直人 川辺邦弘 ⻲田佳明 松角洋平 内藤裕志 椎名一浩 宮崎隼人


鵜山組の安定した演技はコロナ渦でも健在だった。詩的でやたらと長いシェイクスピアの台詞も飽きさせずに聞かせる実力、以前よりも深さが増したように感じられた。
衣装の色で血縁関係や味方をわからせるのはたいへん有り難かった。

リチャードⅡ世王の栄枯盛衰を突きつけてくる物語はものがなしい。

リチャード王と王妃とは仲睦まじく、いかにたがいを大切にしているかが伝わってくる。とても可愛らしい王妃で、王冠を失ったリチャードに共にフランスに逃れて生きようと言う。だが王として育てられたリチャードは、その提案を呑むことはできない。

ボリングブルックは必ずしも王位を求めていないし、リチャードの死を望んではいなかった。だが状況とリチャードの弱気がそれでは済まさなかった。
臣下たちの裏切りは人徳もないリチャードより、勢いのあるボリングブルックにつくのは頷けるのだが、リチャードにしてみれば呑み込むことが難しいことだったのだろう。

自分から破滅に向かって行くように思えるリチャード。捕らわれの身になっても毒殺を警戒していながら、王の命令ではないがその側の者たちに殺されてしまう。

          ☆

人間の愚かさをつくづく感じた。この後の物語を観ている者としては、王冠を巡る殺戮につぐ殺戮を知っているだけに、うんざりとしてくる。
12年に渡って創り上げてきた作品の集大成にふさわしい、完成度の高い舞台だった。

エドマンド・オブ・ラングリー役の横田栄司さんがさすがの存在感を示していた。彼がいると舞台全体が映える、そんな力強い役者さんだ。

ヨーク公爵夫人の那須佐代子さんが謀反を企んでいた息子を庇うシーンが秀逸。その展開は想像できなかった。母は強し。唯一の笑えるところだった。

ボリングブルック役の浦井健治さん。ここまで成長したのだと感慨深かった。作品を重ねる度に実力を蓄えて急成長し続けたのがよくわかる。

王妃役の中嶋朋子さん、実に可愛らしく魅力的だった。それだけではなく、現在の向こう側、物語に語られていない部分までが感じられるような演技だった。

リチャードⅡ世役の岡本健一さん、台詞も演技も自在で、王である辛さ悲しさ、運命さえもが透けて見えた。そこから観る者に人の人生に思いを馳せさせる、そんな演技だった。


臣下にも裏切られ、王冠をもぎ取られ、憐れに墜ちていくリチャード。ついには殺されてしまう。
王冠を求めてやまない人間というもの。血を流しあい、その先にあるものは果たしてなんなのだろう。
そんなことを考えさせられた。

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