SSブログ

「夜は昼の母」 シアター風姿花伝 [舞台]

「夜は昼の母」
シアター風姿花伝
出演 岡本健一 那須佐代子 堅山隼太 山崎一

 千秋楽も終わってしまいましたが、記憶のために書いておきます。


家族というもの、距離が近いが故に甘えも憎しみも共有する。そして反発も妥協も許しもする。
殺してしまいたいほどの欲求も、照明を暗転して変えることで、同じ舞台上に現出させてしまう。周りの人の動きを止めて、本人の素直な願望を描き出す。演出の妙!現実との切り替えが素晴らしかったです。

16歳の少年ダヴィット役の岡本さんは実際には54歳であることを忘れさせてくれた。仕草、言動、兄イェオリへの不満。現実に踏み出すことができない胸のもやもやを表現する。
兄弟らしいたがいへの批判。兄は家族で経営する寂れたホテルの手伝いを積極的に行い、弟は学校にも行かず、ホテルの手伝いもたまに皿洗いをする程度。

ダヴィットの懸念はまた父のアルコール中毒が再燃しそうなこと。妻に内緒で酒瓶を隠しながら飲んでいる。
前回は妄想までが出てきて、それにおとなしく付き合うダヴィットだったし、父が入院したのを見舞ったのは母と自分だった。
やはり軸となる家族の問題は父親のアルコール中毒で、その次がダヴィットの登校拒否と働かないこと。
兄イェオリのまともさが際立つ。その分、弟のふがいなさに苛立つのだろう。堅山さんの確かな人物造形。

2幕の最初でエーリン役の那須さんが夫のマッティン役の山崎さんを見つめるまなざしが凄かった。シニカルで冷えた視線は断ち切りたいのに断ち切れない葛藤すら越えたところにある感情を描き出していた。

父役の山崎さんは妻を愛していて、また必要としていて、別れると言う彼女を手放すことに抵抗を剥き出しにする。膝に甘えてみたり、でも隠していたアルコールを夢中で飲んだり、暴れたり、その様子をダヴィットが物影から見ている。
山崎さん、アル中の大暴れは圧巻。

男たちが心配しているのは母エーリンの咳と肩の痛み。または母が父と別れてこのホテルを出て行くこと。

母の注意を引こうとダヴィットはキッチンの壁のへこみに大の字に張り付いてみたり、アクロバティックなことをしながら母に「見て」と言うのだが、エーリンは心ここにあらずで視線を向けることすらしない。
岡本さんの手振りを交えた具体的で自在な演技力。少年らしさが光る。